side G

2/2
前へ
/3ページ
次へ
 「できたっ」  作った全てのハチマキの端っこに「がんばろう!」と刺繍をして、私は針を机に置いた。  体育祭のハチマキは男子の分も女子が作る。裁縫の得意な私の担当は10本。  今年は好きな人と同じブロック。私の作ったハチマキが龍臣君に渡るといいな。  体育祭当日。  朝、私は部室で体操着に着替えて、ドアを閉めた。  龍臣君の姿はすぐに見つけられる。男子の中でもとびぬけて背が高いからだ。その龍臣君が友だちと一緒に歩いてくるのが見えた。すれ違いざまにちらりとハチマキの端を盗み見た。 「あ!」  がんばろう! の刺繍が見えて、私は思わず声を漏らした。私の縫ったハチマキだ。嬉しくなって口もとが笑むのを隠すために俯く。 「何?」  上から声が降ってきて、私はびっくりして顔を上げた。 「俺、何かおかしい?」  龍臣君だった。 「お、おかしくないです」 「笑ってなかった?」  私はドキリとした。 「え、えっと、……思い出し笑いです!!」  思いついた嘘を力いっぱい言うと、 「ふ、あはは。変な人」  と龍臣君が笑った。 「あ」  龍臣君が何かに気付いたように声をあげた。凝視されて恥ずかしくなって私は俯く。 「刺繍がある」  と龍臣君は言った。私じゃなくて、ハチマキを見ていたんだ。なんだか自分が恥ずかしくなる。所在なげにハチマキを握って隠そうとすると、 「何で隠すの? 俺のにもあるんだ、その刺繍」 「俺のにはないんだよね」  龍臣君の隣の男子が言う。 「ハチマキは女子が作ったんだよね? 一緒の刺繍ってことは早坂サンが作ったもの?」  かあっと自分の顔が熱くなるのを感じた。 「そ、そうです……」 「ふーん」  龍臣君は一度自分のハチマキに触れて笑った。 「がんばるよ。早坂サンもがんばって」 「う、うん! がんばる!」  私は反射的に、そう大きく返事をした。心臓が早鐘を打って苦しい。 「じゃあ、またね」  そう言って二人は去っていった。 (龍臣君とおそろいなんだ)  私はかわした会話を反芻しながらハチマキに触れて微笑んだ。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加