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「できたっ」
作った全てのハチマキの端っこに「がんばろう!」と刺繍をして、私は針を机に置いた。
体育祭のハチマキは男子の分も女子が作る。裁縫の得意な私の担当は10本。
今年は好きな人と同じブロック。私の作ったハチマキが龍臣君に渡るといいな。
体育祭当日。
朝、私は部室で体操着に着替えて、ドアを閉めた。
龍臣君の姿はすぐに見つけられる。男子の中でもとびぬけて背が高いからだ。その龍臣君が友だちと一緒に歩いてくるのが見えた。すれ違いざまにちらりとハチマキの端を盗み見た。
「あ!」
がんばろう! の刺繍が見えて、私は思わず声を漏らした。私の縫ったハチマキだ。嬉しくなって口もとが笑むのを隠すために俯く。
「何?」
上から声が降ってきて、私はびっくりして顔を上げた。
「俺、何かおかしい?」
龍臣君だった。
「お、おかしくないです」
「笑ってなかった?」
私はドキリとした。
「え、えっと、……思い出し笑いです!!」
思いついた嘘を力いっぱい言うと、
「ふ、あはは。変な人」
と龍臣君が笑った。
「あ」
龍臣君が何かに気付いたように声をあげた。凝視されて恥ずかしくなって私は俯く。
「刺繍がある」
と龍臣君は言った。私じゃなくて、ハチマキを見ていたんだ。なんだか自分が恥ずかしくなる。所在なげにハチマキを握って隠そうとすると、
「何で隠すの? 俺のにもあるんだ、その刺繍」
「俺のにはないんだよね」
龍臣君の隣の男子が言う。
「ハチマキは女子が作ったんだよね? 一緒の刺繍ってことは早坂サンが作ったもの?」
かあっと自分の顔が熱くなるのを感じた。
「そ、そうです……」
「ふーん」
龍臣君は一度自分のハチマキに触れて笑った。
「がんばるよ。早坂サンもがんばって」
「う、うん! がんばる!」
私は反射的に、そう大きく返事をした。心臓が早鐘を打って苦しい。
「じゃあ、またね」
そう言って二人は去っていった。
(龍臣君とおそろいなんだ)
私はかわした会話を反芻しながらハチマキに触れて微笑んだ。
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