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私には、気になるやつがいる。
これといった特徴はない。
どこにでもいる普通の青年である。
やつは、私の心を常に揺さぶってくる。
言葉の節々に、態度の端々に、何か敵意のようなものを感じる。
私の思い過ごしであろうか。
私が、相談しようとも「考えすぎでないの?」で済ませてしまう。
言葉の節々に、態度の端々に、誠意をまるで感じない。
私が嫌いなのであろうか。
兎に角、わかっていることは、やつは私の心を常にざわつかせる存在であるということだけ。
それこそ、思い悩んでも何も始まらないのではあるが・・・
とある日・・・ 私の夢にやつが現れた。
どことなく、嬉々とした表情で。
それとなく、寂しそうな態度で。
「夜分遅くにすいません」
「どうしたの?」
「突然なんですが、遠くに行くことになりました」
「どこに行くの?」
「とても楽しい毎日でした。あなたのおかげです」
「どこに行くの?」
「お礼を言わなきゃと思って、こうしてあなたを訪ねたわけです。有り難うございました」
「だから、どこに行くの?」
「それでは・・・ 」
明くる日より、やつは学校に来なくなった。
しばらくしてやつの友人より訃報が届いた。
心が軽くなった。
当然のことだろう。
体も軽くなった。
当然のことだろう。
頬を伝うものがあった。
当然のことだろう…
私には、気になるやつがいた。
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