線香花火

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線香花火

 夏休みのある日、部活のみんなで花火をした。  顧問の先生の監視下で、部費で買った花火を楽しむ。  派手で華やかな花火が人気で、みんな競ってそれを取り合っていたけれど、私は余った線香花火を手にした。 「お。線香花火か。渋い選択だな。先生も一本やろうかな」  私の隣に先生がしゃがみ込み、二人で小さな火花を眺める。その僅かな時間が、私には高校生活一番の幸せになるだろう。  最後の試合が先日終わり、三年生は部を引退する。顧問の先生は担任でも担当教科の受け持ちでもないから、これからは今までみたいに頻繁には会えない。  元々先生は結婚してるから、私が一方的に密かな気持ちを抱えているだけだけど、叶う筈はないんだけど、それでも、部活で会うことすらできなくなるのは辛いし淋しい。  卒業する頃には、この気持ちにきちんと整理がつくかな。  でも暫くは無理っぽい。  人だかりの喧騒が近くにあるにも関わらず、パチパチと、小さな火花の音が響く。それが少しずつ弱くなって、光の玉も縮んでいって、私の最初の恋の結果を示すように落ちて消えた。 線香花火…完
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