3 霜月の灯り

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 ここに、土方が来てくれたら、どんなに心強いだろうか。多忙な身だ、さらに今は謀略を実行中で、まさか土方が来るわけもない。分かっていても、土方の腕がほしい。せめて文だけでも。 『もういい』。  そのひとことだけでも言ってくれたら、諦められるのに。  おこうの視界が、涙でぼやけた。  土方はおろか、そのあとはとうとう遣いの者も来なかった。  南部医師はなにも問わずに、昏睡する深雪を診療所に置いてくれたが、南部の弟子たちは新選組の内部闘争に巻き込まれることを明らかに疎んじている目つきだった。それに気がつかない振りをして、おこうは明るく耐えた。  深雪は、おこうの看病のかいなく、数日後に死んだ。  せっかく遊里を出たというのに、伊東のために働き、倒れた。他人が決めることではないが、姉はしあわせだったのだろうか。  おこうは唇を噛み、姉の人生の短さを思った。
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