4 風穴

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 京を出るように言われたが、住み慣れた京を離れることはできなかった。  おこうは、京の片隅でひっそりと暮らし続けた。醒ヶ井も、高台寺も縁遠い町で。 ***  伏見から約半年後の夏、おこうは女の子を出産した。  亡き、近藤勇の子どもだ。  近藤は知っていたのだろうか、おこうが妊娠していたことを。毒を飲みかけたり馬に乗ったり、かなり無謀な働きもしたのに、子は健やかに育った。  子には、近藤の名である『勇』にちなんで、『ユウ』という名前をつけた。自身の『こう』にも似ているし、おこうは自らの命名に満足していた。黒の仔猫に『さい』と名づけたありし日を思い出す。  親しい者は誰もいない、わびしい世の中だとばかり思ったが、おこうはユウを得たことで、生きてゆく自信を持った。強くならねければ、と誓った。  ユウは、深雪とおさいさん、それに近藤の生まれ変わりだと、おこうは信じて疑わなかった。
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