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土方は腕組みをしながら、じっと耳を傾けていた。途中で総司がお茶を運んできたが、口もつけなかった。総司は、淹れ立ての熱い茶好みの土方が、という不審顔をしたが、眉ひとつ動かさなかった。
不気味な沈黙は、おこうの話が終わっても続いている。耐えかねた総司がおどけて見せる。
「土方さん、そんな深刻に構えないでくださいよ。これで先手が打てるじゃないですか」
「……知っていた」
驚いたおこうと総司は、顔を見合わせた。
「先日、御陵衛士に密偵として潜入させていた、斎藤一(さいとうはじめ)が戻ってきただろう。あいつが仕入れてきたんだ。半信半疑だったんだが、これで裏が取れたな。伊東は真っ黒だ。実は新選組に、伊東本人からも金を所望されている。胡散臭いから延べ延べにしていたんだが、相当金がないんだな。方々で資金作りか。あいつらを誘き寄せるいい材料になりそうだ」
土方は笑っていたが、近いうちに必ず起こる波乱を思うと、胸が痛むおこうだった。
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