3 霜月の灯り

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 伊東が、おこうの家にやって来ることになった。  策は決まっていた。  金の融通を理由に、伊東をごく内輪で呼び出す。  新選組の本陣ではなく、醒ヶ井の家におびき寄せるのは、御陵衛士側の油断をつくるためだ。不信感を持たせないよう、少人数で和やかに、伊東を歓待する。  つまり、泥酔させるのだ。  伊東をしたたかに酔わせて朦朧としたところに、土方が調合した毒薬を飲ませる。毒はおこうが盛るよう、指名された。  たとえ酔っても、近藤や土方では警戒するかもしれないが、深雪の妹で身内のおこうなら、気を許すだろうと土方は踏んだ。  姉の思い人に手をかける。おこうは躊躇したが、土方がやさしい声で囁く。 「この仕事が終われば。分かるな」  近藤はおこうが悪事に手を染めることを危惧したが、ようやく見つけた姉が伊東に騙されて零落しているからと、積極的参加を理由づけた。  憐れな境遇の姉を助けたいと、おこうは近藤にはいじらしい妹を演じて見せた。近藤も近藤で、深雪に未練があったから当然心が動く。最初は深雪を狙っていたのだ。姉妹をともに囲ってもいい、そう考えたのだろう。
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