むせかえるような黄色

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 私が学校に通っていたころ、教科書の「春」ページにはよく、タンポポの花が描かれていた。それから幾年も変わることのなかったささやかな「真実」が裏切られたような、くらくらとした気分で、雪の中のタンポポを見つめたものだ。 「なんというか、不思議な気持ちになりませんか?」と聞いたら、街の人は、「そう言われればそうですねぇ…でも、ずっとそうだったからなぁ」と小首をかしげた。(その人は、その後夏になって、めずらしく日中三十度を越えた日に、「暑いですねぇ。さすがにクーラーを焚きましょうか」という可愛らしい言い間違えをして、ふたたび私をくらくらさせてくれた。夏祭りでもストーブを焚く土地柄なのである。) 「春夏秋冬って、何かね」という、哲学的と言うほどでもない眉間のしわは、その後も都度都度続いたが、まるっと一年をこの土地で過ごしてしまうと、そんな気分もすっかり遠のいてしまった。今では、「雪があるか、ないか」だけで一年を考えてしまいそうな自分を見つけてハッとし、少しかわいこぶって「タンポポ期であるか、ないか」と表現を直してみたりする。     
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