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ダメだったか。
オレ(リュウヤっていうぞ)は応募した文学賞のウェブサイトを見て、自分の作品が落選したことを知る。
小説を書いては、文学賞に応募し、落選。
もう、それを何度繰り返してきただろうか。
「……やめるか」
ぽそっと、口を突いて出た。
オレは、なぜか空想が好きだった。
子どものころは学校や地域の図書館が居場所で、本を読み漁っては。色々と空想を膨らませて、にやける。そんな子供だった。
アレキサンダーやハンニバルといった英雄豪傑の活躍や、SFの未知なる世界の探検。
いずれもオレの心を弾ませるものだった。
すこし大きくなって、ふと、オレもそんな風に空想を物語として描いてみたいという欲求が芽生えて。
作家になるという夢を抱いた。
なけなしのお金で買った安いパソコンで、せっせと小説を書いた。
が、しかし。
現実は甘くない。
賞には箸にも棒にも掛からぬ。
気が付けばオレはアラサーになっていた。
ある日、部屋で気まぐれに横になって、ぼ~、っとしている時。
「やめるか」
ぽそっと、そんな言葉が口を突いて出た。
もう、いいかな。十分頑張った。
十年以上小説を書いてわかったのは、所詮はその程度の実力しかないってことだ。
現実を受け入れて、オレは夢を諦めた。
諦めた、はずだった。
しかし、やっぱり諦めきれない。パソコンを起動しなくなってずいぶんになるが、ふと、書いてみようかと、みっともなくも未練の虫が湧き出てくる。
その未練を抑えることに一苦労だった。
その一方で、新たな趣味ができた。サッカー観戦だ。
地元の緑水市(みどりみずし)には、全日本サッカーリーグの2部に参戦するヴェルドゥーラアクアというサッカークラブがある。緑水をそのままイタリア語にしたクラブ名だ。ユニフォームも緑色。アウエーでは白を着用。
友人のケンジに誘われて市立陸上競技場に観戦に行き、思ったより面白くて、試合の日をチェックして。試合のある日に競技場に足を運んで、観戦するようになっていた。
今日も試合があるので、観戦に来ている。13時キックオフ。幸い天気は晴れ。絶好の観戦日和。
ヴェルドゥーラアクアは昔から全日本サッカーリーグに参戦する古豪クラブではあったが、サッカーに興味がなかったので存在を知っている程度だった。
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