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確かに負けたけど、選手たちだって必死にフィールドを駆けているじゃないか。そんな必死に戦った選手に、負けたからって、そこまで言わなくても。
「考え直せよ」
と、口を突いて出た。自分でも驚いた。
「はあ? なに甘い事言ってるんだよ、お人好しだなリュウヤは」
ケンジは話にならぬと回れ右して、その場を素早く離れてゆき。オレはそれを見送るしかなかった。
ケンジの背中を目にして、オレの中で電撃が走る。彼に対して情けない気持ちもあった。それ以上に、言葉にならないものが起きたようだった。
それから、ブーイングや罵詈雑言が飛び交う観客席の中、オレは心の中で何かが溶けてゆくのも感じていた。
それは、小説に対する未練だった。
「そこまで言わなくてもいいだろう!」
自分でも驚くくらいの大声をあげた。
周囲は驚いて、オレを変な目で眺めている。喧嘩になるか? とさすがに冷や冷やした。しかし、
「この人の言う通りだ、そこまで言わなくてもいいだろう」
「大事な地域のクラブだよ、めげずに応援していこうよ」
と、オレに同調してくれた人が、援護してくれた。
不思議なことだったが、小説に対する未練は、きれいさっぱりと、溶鉱炉に落ちたかのように溶けてなくなった。
援護のおかげか、観客席は幸い大きな騒ぎになって一線を越えることはなく、憮然としながらも、それぞれ帰り支度を始めた。
そうこうする間に、選手たちも引っ込んでいった。
オレも、新たに知り合った、同調してくれた人たちと一緒に市立陸上競技場を後にして帰路につき、駅まで歩きながらそれぞれの思いを語る。
「僕は何があっても応援してゆくよ」
「そうよ、一蓮托生よ。サポーターですもの」
「オレは、ブログを書こうと思います」
ケンジはブログをやめると言った。それならオレが代わって、小説で鍛えた文章力を生かして、サッカーのブログを書いてみようかと。ブログを通じて、ヴェルドゥーラアクアを応援するんだ。
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