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隣の席の女の子が貸してくれた本に、涙のしみが残っていた。
本がとても好きで、いつもにこにこしている彼女が泣いている姿が想像できなくて、そっとそのしみを指でなぞった。
一晩で読み終えて次の日の朝、本を返すと彼女は瞳をきらめかせた。
「ねえどうだった?面白かったでしょ?」
頷くととても嬉しそうに笑うからつい言わずに言おうと思っていたのに口が滑った。
「騎士とドラゴンの別れのシーン、泣いた?」
「えっなんでわかったの?」
「ページにしみがちょっとあった」
「うそ!」
「ほんと」
慌てて彼女はページをめくり、恥ずかしいと呻いた。その様子を見て少し口元が緩む。
「いいじゃん、そういうの」
「君は適当だから信用できない」
「そうかなあ」
「そうだよ」
もっと言葉を探したかったけど、うまく見つからなくて彼女の横顔をそっと見た。不意に彼女はとろけるような笑顔をこちらに向けてみせた。
「ね、次はすっごくドキドキする本貸してあげるね」
「ドキドキ?」
「ラブでホラーで世界征服系!」
「それはドキドキかもしれない」
先ほどまで眉を寄せていたのに彼女はもう嬉しそうに笑っている。
「隣の席ですぐ感想言い合えるの、嬉しいね」
「・・・そうだね」
僕だけが、それだけではないってばれたらちょっと困る。
そんな風に感情を揺らす感受性の強い彼女のことが僕は好きなのだ。
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