第二十一章 黒限ノ夢

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 白波瀬は轢き逃げに遭い即死し、伊東は鈴木に食べられた。 「救いがない話しになったような……」  こんなに暗い話を、残っている霊の分だけ聞いていたら、こちらの心が病んでゆきそうだ。それに、肉体関係はどうでもいい。そして、普通の恋愛はないのか。成仏できていないので、しょうがない部分もあるが、面倒な霊が多すぎる。  俺が唸っていると、寒河江が俺の肩を叩いて同意していた。あと何体の霊があるのか分からないのに、最初でこんなに疲れてもいいものだろうか。 「ええと、最後はお互いに秘密を抱えていても、幸せだったのでしょう?」  ここで、二人が頷いていた。一生、言う事がないだろうと思っていた気持ちを伝え、同棲までいったのだ、幸せであったと思いたい。 「お互いに本音を言ったのだから、これで成仏でどうでしょうか?」  まるで商談をするかのように、互いに向き合って確認してしまった。だが、白波瀬も伊東も頷いているのに、一向に成仏の気配が無かった。 「……何か、やり残した事とかがありますか?」 「ヤリ残した?」  何となくニュアンスが違っている気がする。俺が首を傾げていると、床に胡坐をかいていた伊東が正座になった。 「菩薩、俺達が他の成仏を手伝いますので、その代りに、もう少し、こいつとヤラせてください」 「は!!?」  白波瀬は、驚いて伊東を見てから、少し表情を曇らせた。 「俺は、母親とか妹とか、もういいのですよ。でも、こいつと、最後はただ思い合っていたかった……」  母親も妹もいいのか。それには、同意できないが、恋人とただ思い合っていたかったという気持ちには共感する。 「白波瀬さんも、同じですか?」  白波瀬は、視線を逸らすと、真っ赤になって悔しそうに唇を噛みしめると、頷いていた。 「理由とか……そういうのはナシで話したかった……ただ好きだけで良かった」  死んで良かった事は、未来を考えなくてもいいことだろう。未来を考えないと、人は今の思いだけになり、ある意味自由になる。 「……分かりました、成仏するまで、手伝いをお願いします」 「兄さん!」  新悟が俺を睨んでいたが、ピノに残っている霊が、黒い羽募金に関わった人達だとすると、同じく関わって死んだ者の協力があったほうがいいだろう。
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