第一章 人知れず咲く花

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 桜本の台詞に、俺の方が真っ赤になってしまった。普段の桜本からは、想像もつかない言葉で、この二人が実質夫婦だった事を思い出した。文句を言いつつも、桜本も瀬谷を焦がれているのだろう。 「瀬谷……離れている時間、ずっと……繋がりたかった……」 「私も同意見です」  風呂場でするのかと思ったら、ベッドに移動していた。更に、念入りに準備もしている。  瀬谷はベッドに、様々なグッズを揃えていた。しかし、まず軽くキスすると、桜本を押さえ込み、深く舌を差し入れた。桜本は、瀬谷の胸を押して離すと、首を振った。 「……尻を舐める前に、キスしてよ。減点ね……」  赤点並みだと言われて、瀬谷が項垂れる。 「では、桜本さんが欲しがっていた、モノをあげます……桜本さんが満足するまで、頑張ります……」 「眠らせないように頑張ってね……」  さあ、これからベッドインかと読んでいると、倉田がノートのページを閉じてしまった。 『ここからは、大人の時間です』 「俺も、大人でしょ!」  まあ、確かに桜本のプライベートを覗いてはいけない。俺が、仕事の内容を確認しようとすると、出て来た時任に摘ままれてしまった。 「市来、邪魔!」  でも、時任は俺を肩に乗せてくれて、ノートを読めるようにしてくれた。 「黒限ノ夢ですね」  これは無差別殺人事件となっていて、雨之目が担当していた。  事の発端は、有名菓子店の折り詰めのクッキーで、中毒患者が出た事に始まる。そのクッキーは、雑誌やテレビで紹介されたもので、長蛇の列に並ばなくては買えない品であった。  そのクッキーが、保険販売員の集まる休憩室に置かれていて、三時頃に戻ってきた販売員達が食べて次々と倒れた。クッキーを食べた人には、激しい吐き気が襲い、脱水症を併発していた。  この時は、処置が早く全員が助かった。 「猛毒の虫の粉末が、クッキーのチョコレートに混じっていた。マメハンミョウの粉?」  チョコがほろ苦く、クッキーが甘い構造であったので、食しても気付かなかったらしい。  これは、当初、菓子店の人気を妬んでの行為だと推測されていたが、おかしな点があった。まず、保険販売員の休憩室には、部外者が入れなかった。でも、誰がクッキーを置いたのか、販売員達は知らなかった。
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