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「本名みたいでね、遠藤 志(えんどう こころ)という名前だった。介護士で、老人の最後をよく看取っていたよ」
丁寧で優しく、老人はココロを指名して介護を頼んでいたという。
「ココロの介護する老人は、安らかな最後を迎えると評判で、人気者だったよ」
でも、ココロのストレスも半端なくあるようで、女性と寝て発散させていた。
「……俺は、織田さんの完全私界にいれば、安眠できるからね……木積は嫌いではないけど、どうしても無理が出るからさ」
木積は、夜がかなり激しく、久住は肉体的に限界だという。
「市来、俺のことよりも、菅原さんでしょ……」
久住は、映像を確認して、暫し唸っていた。
「菅原さんは、自分が死んでゆく姿を映像に残そうとした。多少、やり方は違うけれど、これが、妹が殺された方法なのだと、確信していた」
菅原は、妹が誰に食べられていったのかも、知りたがっていたという。それは憎しみではなく、最愛の妹が誰かの血肉になっていると思うと、少しは救われるかららしい。
「人も弱肉強食で、食物になる……生命は、食う事で繋がってゆく」
菅原は少し年の離れた妹を、まるで娘のように溺愛していた。妹は、何でも兄に相談していて、付き合った相手も、最初に紹介するのは兄であった。妹が結婚し、子供を産んだ時は、菅原も本当に喜んだ。その時は、菅原も親のような溺愛を卒業し、自分の結婚を考えなくてはと思ったらしい。
だが、そんな幸せも、妹の失踪で終ってしまった。残された娘達は、父親が育てているが、その父親は新しい恋人を持ち一緒に暮らし始めた。妹の娘達も、新しい母親を受け入れるようになっていた。
妹の存在が消されてゆくと、菅原は一人で苦悩してしまっていた。そして、妹が殺された経緯を辿り、自分も同じように殺される事を望んでいった。
「菅原さんは、妹さんと同じ人に食われたいと願った……」
兄妹愛を越えて、まるで大恋愛のようにも思える。
「雪矢君、菅原さんが食べられるのを望んでいたとしても、俺は埋葬を望むよ」
「君で呼ばないで……雪矢でいいよ。気味が悪い……」
雪矢は、映像に残る、僅かな隙間から見える景色で、おおよその位置を把握していた。
「ここの辺りで、建物の二階だな」
でも、雪矢の説明は大雑把過ぎてよく分からない。俺は、雪矢からヒントを貰うと、道を推測してみた。
「行くか……」
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