第八章 明日を忘れた君へ 三

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 菅原を見つけに行こうとすると、久住が鍵を持ってやってきた。久住は、メーターの料金を給料にしているので、ここに居ても一銭にもならない。しかし、まだ木積と織田が話し合っているというのに、出かけても大丈夫なのだろうか。  庭では織田が腕を組んで、木積と向き合っていた。かなりの美形である織田と、人間から離れて野生化している木積とは、まるで別世界の住人のようだった。  木積も姿は自覚しているようで、織田を見る目が鋭い。 「貴方は久住でなくてもいいのでしょう?俺は、久住しかいないのですよ」 「久住さんには、俺が必要なのですよ……」  確かに平行線のまま、縮まる感じがしない。久住はココロに、木積の写真を送り、会う場所などを指定していた。 「木積も、俺でなくてもいいのさ……」  木積を受け止められる人ならば、誰でもいいのだと久住は呟いていた。 「行くか……雪矢君の説明で、おおよその場所は分かったからね。でも、今日はここに帰って来られないかもしれないから、寝袋を持っていってね」  俺が毛布を持ってゆこうとすると、毛布にくっついて松下が来ていた。 「……松下さん、仕事はいいのですか?」 「在宅勤務でしているよ。それに代休と有休がある、だから平気だよ」、  五人町に来ても、松下は合間に仕事をしていた。松下はかなり忙しい人なので、死保の仕事に付き合わせてしまうと心が痛む。  雪矢が車に乗り込むと、雨之目も車に乗り込んでいた。ワゴン車であるが、四人が乗り込むと、狭く感じる。するとそこに、明海も乗り込んで来た。 『鈴木に憑いている霊を成仏させないといけないでしょ。でもさ、鈴木が死んだ場合は、拠り所を無くした霊が飛び散って、面倒になるね……』  そして、鈴木が警察に捕まれば、一緒に霊も付いていってしまう。 『そこで、依り代を用意したのよ。そこに憑いて貰って、持ち帰ってこよう!』  依り代だと出されたのは、新悟が研究している義手や義足を、動作確認するときの人形であった。これに霊など憑かせてしまったら、俺が新悟に怒られそうだ。 「明海、これは新悟の冶具でしょ。使ったらダメだよ」  人形はピノキオのような姿をしていたが、俺を見てウインクしていた。もしかして、もう霊が取りついているのではないのか。 『その人形は、いつか人間に生まれ変わりたいのよ……でも、今のところ、人形には死が無かった』
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