第九章 明日を忘れた君へ 四

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 心を持たなかったココロに、恐怖が沸いた瞬間があったという。それは、ココロが木積を受け入れた時であった。ココロにとっては、生まれて初めて、自分の中に他人を感じたのであろう。その他人が、自分の中で動き、ココロは声にならない叫び声をあげていた。 「ココロは、木積や世の中を激しく罵倒していた。それなのに、又、会いたいというのは、何故なのだろう」  俺も、ココロに違和感がある。 「寒河江、木積さんは久住さんと別れれば、死保の協力者ではなくなるのかな?」 『今、死保が木積さんの記憶を消そうとしていますよ。木積さんは、死保の協力者ではなくなります』  死保は、最初から木積の恋人はココロだと、記憶を置き換えようとしていた。木積の記憶から、死保と久住が消える事になる。 「寒河江……ココロさんの周辺を調べてくるよ。きっと、介護していた人が失踪しているよね……」  誰かが、俺達にココロを引き合わせて、事件に関わらせようとしている。でも、それが分かっていても、やはり関わってしまうのだ。 「寒河江、ココロさんの事で分かった事があったら教えて」 『了解』  再び映像を確認すると、ココロの演技も木積は気付いているように見えた。だから、遠慮も容赦もせずに、ココロの身体と心を拡げていった。 「あれって、あんなに拡がるものなのですか……」 「まだ序の口よ……木積のは、もっと太いうえに、先端がな……釣り針みたいな返しがあって、引っ掛かるのよ。だから柔らかくしておかないと、もの凄くきつくて痛い。それに裂ける!」  木積の指は一本でも太いのに、ココロは三本も咥えていた。更に指は自在に動き、ココロは涙をこぼし、口からは大量の涎を流し始めた。もう、痛いのか快感なのか、分からなくなっているのだろう。  木積は無表情で、ココロに指を入れて慣らしていた。事務的な事柄をしているようで、少し怖い。 「木積……」  木積は、ココロを抱くのではなく、改造したのだという。久住には、木積の心も見えているようで、困ったように苦笑いしていた。 「……唯一無二の相手だと思っていた、俺を失った……新しい相手を造ろうと思っても、こうして壊れてゆく」  壊れてゆくのではなく、壊してしまったのではないのか。木積は、ココロを壊して、手に入れようとしているように見える。指だけで泡を吹いて失神したココロを、木積は冷たく見降ろしていた。
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