第九章 明日を忘れた君へ 四

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「まずは、菅原さんを探すけど。これは、繋がっているのかもしれないよ」  別々に動いていたものが、最悪のシナリオに向かって集約されてゆきそうだと、久住は感想を言っていた。  再び車に乗って出発すると、鈴木が隠れている場所が、だんだんわかってきた。鈴木は、田舎に一軒屋を借りていて、そこに閉じ籠っているようだ。でも。家を借りている人の目名義は、鈴木では無かった。 「家を借りているのは、斎藤 信(さいとう しん)普通の会社員みたいだね」  警察も動いているので、現場で鉢合わせしてしまいそうだ。その時は、事件を雨之目と雪矢に任せ引き上げろと、死保から指示がきていた。 「ここまできて、引き上げろはないですよね……」  鈴木の閉じ籠っている家に近付くと、近くの空き地に車を止めた。 「百人を越すかもしれない殺人になります。マスコミに知られないように、ここには精鋭部隊が到着します」  百人を越しそうな殺人を、放置していたとなったら、警察の威厳に関わる。そこで、この事件は、菅原他、数人の殺人で処理されてしまいそうだった。 「人を食べさせていたというのも、どう発表されるのか分かりません」  社会に影響が大きいと判断された場合は、秘密裡に処理されてしまう場合も多い。でも、俺は死保で、事件解決が目的ではない。 「分かりました。霊を人形に移したら、深追いはしません……」  鈴木は古い二階屋の民家の、一階部分にいるようだ。雨戸などが閉まっていて中が見えないが、電気のメーターが動いていた。一階から微かに物音がしていて、声が聞こえていた。 「愛しい、愛しい人、これで、やっと一緒になれますね……」  小さな庭には、雑草が生え放題になっていて、ゴミも散乱していた。一階に鈴木がいるのならば、二階から忍び込む方がいいだろう。俺が二階を見上げていると、明海が屋根に飛び乗っていた。 『市来、人形を忘れるなよ……』  明海の声は、普通の人には猫の泣き声にしか聞こえない。俺は人形を背負っていたが、やけに重いような気がする。しかも、この人形は、時折笑う。しかも、時々、人形の足が俺を蹴っていた。 『その人形、新悟の愛情を独り占めしたかったみたいだな……』  本当に、こんな不気味な人形しか無かったのだろうか。ここに置いて帰りたい気がする。
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