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俺が背に人形を背負い、屋根に登ると、隣の家の人に見られそうになってしまった。咄嗟に隠れたが、不審者だと思われた事は確かだ。これ以上目立たないように、素早く家の中に入りたいが、全部の雨戸が閉まり鍵もかかっていた。
『市来、ここから来い!』
明海が中から鍵を開けてくれたが、このドアは何に使用していたものだろうか。屋根に対して、普通のドアが付いていた。
俺はドアから中に入ったが、振り返ってドアを確かめてしまった。ここには、増設する予定の部屋でもあったのだろうか。屋根に出る扉にしては、妙な作りであった。でも、家の作りを吟味している時間も無いので、音を立てないように階段を降りる事にした。
一階に行くと、真っ暗な室内の中で、鈴木の声だけがしていた。鈴木は、キッチンにいるようで、その部屋からは光が少し見えていた。
光の漏れる隙間を覗くと、そこには鈴木の上半身と、菅原の頭が見えた。鈴木は、菅原の頭を、鉄製のボールに入れて、氷で冷やしていた。解体された肉は、調理台の上に置かれていて、ひき肉も大量にあった。
持ち込まれた簡易コンロの上には、大きな鍋が置かれていて、かなり臭い匂いが漂っていた。部屋の換気扇が止まっているので、匂いが建物に籠ってしまったようだ。この匂いは、記憶を漁り、モツの煮込みを作っている時の匂いを思い出した。
「菅原さん、一緒にディナーを食べましたね……美味しかった」
鈴木が独り言を言いながら、包丁で野菜を刻んでいた。
「愛した内臓を食べられるのは、至福ですね……この細い腸で、菅原さんが俺と愛し合ったのですね」
ここにある肉が菅原だとしても、俺に出来る事は何もない。俺は、手を握り締めると、背から人形を降ろした。
鈴木に憑いている霊を、人形に移さなくてはいけない。明海に方法を聞こうとすると、人形が指で、話すなとPRしていた。だが、人形は口を開けると、何か白い靄のようなものを吸い込み始めた。
霊が白い靄で見えているのかと思ったら、人形が咳き込みそうになっていて、靄ではなくて煙なのだと分かった。何が焦げているのかと、隙間を見ようとすると、玄関をノックする音が聞こえてきた。
「消防です!空き家の筈なのに、煙が出ていると通報がありました。誰かいますか?」
消防がノックを続けながらも、煙の元を探しているようだった。
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