side he

3/5
24人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
 それから連絡先を交換し、何回か二人で会うようになった。デートコースはいつも彼女のお決まりで、駅前の近くにある銀杏並木を並んで歩くところから始まる。  何を話すでもなく、ただ黙って俺たちは寄り添い、道沿いに歩いた。最初の内は俺からぽつりと話しかけることがあったが、彼女はただ微笑むだけで、あまり話したがらなかった。微笑んではくれるけれど、その視線は俺を通り越して、空を見つめているように感じた。  まるでその空にはどこか違う世界が映っているように、それを愛おしそうに見つめていた。そこから意識を逸らすことを許されない気がして、俺も静かに押し黙った。  出会った頃はまだ青々とした葉に囲まれていた景色も時が経つにつれ、黄金色に姿を変え始めた頃、俺たちはいつものように歩いていた。  俺が彼女を見ると、彼女もすっと頬を緩める。だが次の瞬間、彼女の視線はすれ違った人影を目の端まで追いかける。  そして、瞳の奥で夜の帳が開いた。  潤みのさした瞳に夜の波がさわわと揺れる。彼女は顔を背け、平静を取り戻すかのようにきゅっと口角を上げた。それは間違いなく愛しさを含んだ哀しみの表情だった。  その時、俺は気付いてしまった。すれ違った男の薬指には、銀色の指輪がはまっていたことに。     
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!