side she

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 彼の様子がおかしいことには気づいていた。会うたびにお酒の量が増えていき、気丈に振る舞ってはいても時折、静かに目を伏せる仕草が少しだけ目についた。  それが今日は特にひどかった。顔を合わせた時から少し足取りがふらついていて、お酒のペースもいつもの倍も速かった。自分を壊すようにぐいぐいとお酒を呷る彼に戸惑っていると、いつもは私に合わせて黙ってくれている彼が、今日は手を握って「俺を見てよ」と言った。その時、ああ、私のせいなんだわ、と思い、ますます何も言えなくなった。  店を出る頃には、私が手を貸さないと真っすぐ歩けないほど彼は酔っぱらってしまっていた。酔いも手伝って大胆になったのか、発言とは正反対に弱弱しく指先を立たせてホテルに寄ろうと看板を指さした。  その気もないのにそれに従ったのは、彼が倒れてしまいそうなほどに辛い表情をしていたのが見ていられなかったから。案の定、彼は求めてきたけれど、私にその気がないとわかるといつも通り優しく口づけをしてくれた。そういう、いつでも理性を備えているところが私は好きだった。
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