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額に手を当てると、頬の赤みほどあたたかくはなかった。
小指が少し瞼に触れて、涙が一筋、目尻から駆けていった。彼の耳に流れ着く前に、指先でそっと掬い上げる。涙は私の指の上で、あたたかな色を湛えて儚く消えていった。その手で、細く明るい色の髪を撫でる。こんな派手な見た目だけれど、本当は一途で繊細な人なのだ、あの人とは違って。
あの人は移り気で粗雑。それでいて、本当に愛している人がいる。それでも私があの人から離れられないのは、夜の闇でつながった運命みたいなものだった。
静かに更けていく海辺に私たちは佇んでいて、あの人は憂鬱そうに煙草を吹かしていて、私は眠れない夜に泣いていた。全世界の闇が私たちを巡り会わせてくれたようなそんな夜のこと。忘れられるはずもなかった。
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