side she

3/4
前へ
/9ページ
次へ
 額に手を当てると、頬の赤みほどあたたかくはなかった。  小指が少し瞼に触れて、涙が一筋、目尻から駆けていった。彼の耳に流れ着く前に、指先でそっと掬い上げる。涙は私の指の上で、あたたかな色を湛えて儚く消えていった。その手で、細く明るい色の髪を撫でる。こんな派手な見た目だけれど、本当は一途で繊細な人なのだ、あの人とは違って。  あの人は移り気で粗雑。それでいて、本当に愛している人がいる。それでも私があの人から離れられないのは、夜の闇でつながった運命みたいなものだった。  静かに更けていく海辺に私たちは佇んでいて、あの人は憂鬱そうに煙草を吹かしていて、私は眠れない夜に泣いていた。全世界の闇が私たちを巡り会わせてくれたようなそんな夜のこと。忘れられるはずもなかった。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

24人が本棚に入れています
本棚に追加