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side he
触れる唇からはまだ、好機のぬくもりが感じられた。
うっすらと目を開けば、白い肌越しに夜の街のネオンが燦然と煌めく。ガラス戸の向こうのそれは、少し白ばんでいて、まるで俺たちだけ世界と隔たれた場所にいるみたいだった。
ポロロンと憂いをふくませたピアノの音色が部屋の中を一人歩きしては、ムードを越えてはいけない世界へと引き込んでいく。俺はまた目を閉じ、のせられるがままに己の欲情をうねらせる。
もっと深く、俺の中へと溺れさせてしまいたいと唇を踊らせ、吐息の隙間から舌を出す。だが、彼女の唇はぐっと閉じられた。固く結ばれるそれからは静かに熱が冷めていく。
今日もまた、彼女はディープキスをさせてくれない。
好機を逃した欲情は、昂る身体を持て余して唇に絡みつく。けれど、彼女はそれを拒もうとも受け入れようともせず、静かに目を瞑っていた。この曖昧な優しさに絆されて、俺はずっと独りよがりに貴女を求め続けるのだろうか。
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