転落

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 相手は、明らかに戦い方を変えてきていた。第一ラウンドの時のように、いきなりラッシュを仕掛けようとはしない。左ジャブを連打しながら、距離を取っている。リングを広く使おうとしている。  距離を詰め、ロープに追い込んで、集注打を浴びせようとしたが、上手く回されて、再び距離を取られてしまう。何度か懐に飛びこもうとしたが、逆に数発のパンチを浴びてしまい、こっちのパンチは一発も当たらないといった展開が何度も続いた。 「何やっているんだ。真っ直ぐに飛び込むからだ。体を左右に振れ」  セコンドから指示が飛んで来た。  そうか!  俺は軽快にリズムを刻み始めた。顔を軽く左右に振った。相手に焦点を絞らせないようにするために。  それでも、相手は左ジャブの連打を止めようとはしない。体勢を低くして、上体の左右の振りを更に大きくしながら、相手との距離を詰めていく。  左ジャブを二発放ち、ワンツーを仕掛け、左フックを放つ。一気に大きく下がられて、不発に終わったが、左右のストレートを連打しながら追いかけて、コーナーに追い込むことが出来た。  自分の体を相手に押し付け、下から左右のアッパーをボディーに突き上げるようにして打ち込み、顔面のガードが下がったところに、左フックを顔面に叩き込む。  相手は、必死に脇を引き締めて、こっちの攻撃をブロックする。殆どのパンチが防がれたが、数発は当たっている。     
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