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「本当に今さら謝っても何にもならないのですが、どうしても謝りたいんです」
そう言うと、男はその場で土下座した。
「本当にすまない……許してくれとは言わない。俺を恨みながら成仏して幸せになってくれればいい」
するとどうだろう。生徒たちの影が徐々に薄くなり、体の一部から消え始めてきた。
そして、生徒たちはまた一人、また一人と消えていった……
「自分が死んだ理由がわかって未練がなくなったんですね」
男が土下座した状態から、顔だけ上げて俺に言った。
「それにしても……」
俺は呟いた。ほとんどの生徒は消えてしまったが、一人だけ残っている。俺もなぜか消えずに残っているし、犯人の男も。そして校長も。
「なぜ……」
俺は最後に残った生徒に向かって言った。
「山口、君はどうして……」
山口は目立たない生徒だった。成績は中ぐらいでとにかく大人しい印象しかない。
「先生こそ、どうして成仏しないんですか?」
山口は逆に聞いてきた。確かに俺が成仏しないのは不思議だ。自分でも気づいてないような未練があるのだろうか。それに犯人の男も、もうみんなに謝れたんだから成仏してもおかしくないはずなのに。
「先生、何で僕たちが爆発に巻き込まれたか分かりますか?」
「それはさっきこいつが言ったように、こいつの爆弾が爆発したからだろ」
そんなこと分かりきっているじゃないか。どうしてそんなことを聞く?
「そうじゃなくて、どうして僕たちがその時間ホームルームをしていたか、です」
あっ! そうだ。本当なら卒業式に出ていないといけない俺たちが、あの日なぜ……?
「俺が勘違いしていたんだろうか」
俺はふとそう呟いた。
「本当にそう思うんですか?」
山口の表情は真剣だ。そう言われると、俺も自信はない。打ち合わせでも何度も確認しているので、開始時間を間違えるとはあまり思えないのだが……
「そこの人も、なんでだろう?って思ってるんでしょ」
山口は土下座したままの犯人の男の方を向いて言った。
「ああ、そうだ。俺の未練はきっとそれだ。俺の計画通りなら誰も死ななかったはずなのに……」
男の全身からは悔しさが滲み出ていた。
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