ヴィーナス

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ヴィーナス

「君を見ていると眩しいね… そう、まるでーーーヴィーナスだ」 フランス国籍を持つ台湾人 ジェイが言った 「ヴィーナス?」 「そう、ヴィーナス」 エッフェル塔のそばにある メリーゴーランドに乗りながら 貴方は私に囁いた (くう)に指で 文字を書きながら 台湾人の父母を持つジェイは パリ生まれのパリ育ちとは言え 書道の腕前はなかなかのものだ 彼の指の動きを辿れば 【金星】と書いたのだなと 理解する 「き、ん、せ、い、ね。 日本では一番星って言うわ。 夕焼け空にキラキラと輝いているあの星ね。」 「そう、きんせい、ね。」 ちょっぴりカタコトで そういうと私を後ろから ふわりと抱きしめる 私の頬が赤く染まる 夕暮れ時のその場所に誰もいない 私たちを乗せたメリーゴーランドは ゆっくりと、ゆっくりと 回転していく 暮れなずむその空に (よい)の明星が輝き始めた 「君だよ」 その空を見上げ ネイティブな早口のフランス語で 貴方は囁く わざと、耳元で 私が弱いということを知っていて 貴方はいうの… 「僕のヴィーナス…」 くすぐったさに軽く睨み付けると 不意に貴方は私に口づけた ダメだよって言っても 貴方は止めない ゆっくりと回るメリーゴーランド 私たち以外に誰も乗っていない 貴方からの口づけは どんどん、深くなる 貴方と私だけの空間 ただ… 空に浮かぶ ヴィーナスーー 金星だけが 私たちを そっと見ていた
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