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嫌になるほど強い日差しの中、それでも出掛けたのは、下ろし立てのスニーカーのためじゃないわ。
あなたに会いたかったからーー
これを恋だと認めたら、上手く話せないみたい。
慣れないスカートはやめて、いつものジーンズを手に取った。Tシャツの上にパーカーを羽織る。だってあなたのために着慣れない服を選ぶだなんて、まるで意識してる証拠みたいじゃない。
ねえ、覚えてる?
私とあなたが初めて会った日。あなたは右手にシルバーのブレスレットをしていて、場違いなそれが妙に印象的だったわ。私はこっそり真似をして、左手にブレスレットをするようになったの。
いつか、その二つの飾りが重なり合う日がくるかしら。そんな妄想を浮かべて。
いつもの場所で、あなたの姿を見かけた。
その様子にドキドキしてしまう。何でもない風を装って話しかけた。久しぶりの会話は、どこかぎこちなくて。貴重な時間は短く過ぎて、それなのに長く感じた。
家に帰って振り返れば、話し忘れたことがたくさん。あれも、これも。もっともっと、自然な感じで話したかったのに。
あなたと話せた幸せな気持ちと、少し寂しい気持ちが入り混じる。だってあなたは、忘れてしまっていたのだもの。私があなたに、過去にした会話を。
話せば話すほど、あなたは遠い存在なんだと感じる。近付くのは容易くなくて、私はすぐに諦めたくなる。
窓を開ければ、昼間の熱気を含んだ夜風が流れ込んできた。
あなたにとって私は瑣末な存在なのだとがっかりして、夏の夜空にひとつ、ため息をついた。
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