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俺は、絵を描くのが好きだった。何より楽しかった。漫画家になりたくて、毎日描いていた。
けれど、十年経った今は全く描いていない。いや、描けないのだ。
切っ掛けは十四歳の時、クラスメイトに告げられた一言だった。
「お前の絵、キモい」
話した記憶すらない奴だった。ただ一言、理由も補足もなく、それだけを言われた。
それ以来、描くことが怖くなった。
言われた直後は、負けてはならぬと描いていた。だが、言葉は頭から離れず、“描く”イコール“苦しい”へと変わっていってしまった。
大勢の賞賛より、悪口が勝ってしまったのだ。
その頃、ちょうど受験期を迎え、俺のストレスは簡単にピークを迎えた。心を病み、最終的には描くこと自体を止めた。
だが、漫画家の夢は諦めきれず、代わりとしてプロット製作に励んだ事もあった。いや、今でも励んでいる。
だが、それも上手くはいかなかった。
生きる上で最も大切にしていたものを失い、俺は虚無に駆られた。そのクラスメイトを心から憎んだ。心の中で、何度も復讐した。
だが、それでも記憶は断ち切れなかった。
そんな経緯を経て十年。二十四歳になった俺は今、何の面白味もない中小企業に勤めている。
根暗無口で有名な、冴えないサラリーマンとして。
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