■■■

1/1
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ

■■■

 俺は、絵を描くのが好きだった。何より楽しかった。漫画家になりたくて、毎日描いていた。  けれど、十年経った今は全く描いていない。いや、描けないのだ。  切っ掛けは十四歳の時、クラスメイトに告げられた一言だった。 「お前の絵、キモい」  話した記憶すらない奴だった。ただ一言、理由も補足もなく、それだけを言われた。  それ以来、描くことが怖くなった。  言われた直後は、負けてはならぬと描いていた。だが、言葉は頭から離れず、“描く”イコール“苦しい”へと変わっていってしまった。  大勢の賞賛より、悪口が勝ってしまったのだ。  その頃、ちょうど受験期を迎え、俺のストレスは簡単にピークを迎えた。心を病み、最終的には描くこと自体を止めた。  だが、漫画家の夢は諦めきれず、代わりとしてプロット製作に励んだ事もあった。いや、今でも励んでいる。  だが、それも上手くはいかなかった。  生きる上で最も大切にしていたものを失い、俺は虚無に駆られた。そのクラスメイトを心から憎んだ。心の中で、何度も復讐した。  だが、それでも記憶は断ち切れなかった。  そんな経緯を経て十年。二十四歳になった俺は今、何の面白味もない中小企業に勤めている。  根暗無口で有名な、冴えないサラリーマンとして。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!