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その後も着々と親交を深め、俺は白石から信頼を得ていった。酒を酌み交わすことで、様々な情報も引き出した。
白石は唯の出来る奴に留まらず、幸せな家庭まで保有していた。愛しの妻と娘がいるそうだ。
正直、その話を聞いた時、腸が煮えくり返った。俺の人生を潰したやつが、良い思いばかりしているなんて許せなかった。
――だから、全部潰すと決めた。
「白石、どうかしたか?」
時刻は午後六時。既に定時を回っている。社員が一人ずつ消える中、隣に白石はいた。前のめりでパソコン作業に熱中している。
「書類紛失しちゃって、代わりの至急用意しろって怒られたー」
手が離せないのか、振り返らず返事してきた。口調こそ軽快だが、内容はかなりハードだ。
「それは大変だな。何の書類? 手伝おうか?」
画面を覗き込むと、想像と似た文が見えた。だが、空白が多く、進行は悪いと取れる。
「いや、僕のミスだから自力で頑張るよ」
上司の席と時計を、それぞれ一瞥する。空席を確認し、言葉を練り上げた。
「今日も夜帰りか。最近、残業増えてるけど大丈夫か?」
「大丈夫。むしろ、最近失敗ばっかりしてるから取り戻さないと。妻と嫁の為に給料下がるのだけは勘弁して欲しいし」
「……無理はするなよ」
上辺だけの言葉が、スラスラと出て行く。顔を合わせていない所為で、今は表情すらない。ただ喋っているだけだ。
「ありがと。遣り切ってくから入江は先帰ってて」
「いや、待ってる。やる事が無い訳じゃないし。終わったらまた飲みに行こうぜ」
「あぁ、ありがとう。早めに終わらせるよ」
それでも白石は、嬉しそうに感謝を口にする。それが可笑しくて堪らなかった。
書類の紛失や連日残業の原因だって、俺が仕組んでいるのにね。
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