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****** 早朝の電車。ようやく太陽が山々に手を伸ばしかけたころ。私は多くの機材を詰めた黒いケースを荷台に上げ、長い座席の端に両腕を抱いたまま小さく座っていた。 車内には私の他に年配のビジネスマンと朝帰りの学生がいるだけ。誰も音を発さない。生きているのかも怪しく感じるほどに静かだった。いまは賑やかな方がありがたかったのに。 寒々しい座席の端で、私は小さな体をより小さく丸めて体温の維持に努めた。 高校生の頃、地元が嫌いで、都会に行きたかった。高校のクラスメートの3分の1は卒業後すぐに就職し、残りは地元の大学か専門学校かに進み、各々の身を新たな環境に預けていった。私は都会の大学に進学し、新歓コンパやサークル活動など、“いかにも”な大学生生活を送った。マンガやドラマにあるようなイベントを一年ほど送り、それらがみんな造りもので、都会の生活を夢見た若者たちがフィクションの学生生活を自分たち自身で演じているだけだと気づいた。誰もが同じような時期に恋人をつくり、あっという間に別れていく。私も周りに倣ってカレシをつくり、結局すぐに別れてしまった。都会での暮らしにはなじめなかった。クラブやバーなんて私には高すぎる敷居だった。同期生たちがなぜ何の抵抗もなくそこに混ざっていけるのかがさっぱりわからなかった。いま思い返すと彼らが本当に混ざっていたのかもわからない。 カメラは好きになった。2年目からサークル活動を控え、アルバイトに時間を使うようになった。フランチャイズの喫茶店だったが、その店の雰囲気は好きだった。そこで出会った常連客からカメラと写真の魅力を教わり、知り合いだという写真家の個展にも行くようになった。 電車は街に向かって走り続けている。小さな町の駅をひとつ越え、乗客も増えてきた。ここからまたしばらくの山の中を走る。窓の外で5、6階建ての雑居ビルが流れていく。 大学卒業後、私はカメラマンのアシスタントとして事務所に勤めていた。同期のアシスタントは徐々に仕事を任されていった。私は自分が仕事で撮影するためにカメラを持つことはなかった。毎日毎日、樹脂と金属の塊が詰められたバッグを運び、それらを組み立て、撮るひとと撮られるひとが来るまでに場を整えた。
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