2

2/3
前へ
/6ページ
次へ
撮るひとも撮られるひともこっちの事情なんて考えもしない。風が吹くだけと喜ぶし、陽が照ると怒る。逆の場合もあった。撮られるひとは撮るひとに文句を言い、撮るひとは私を叱る。今だって、こんな時間に電車に乗っているのも早朝から撮るひとの機嫌を損ねたからだ。 『邪魔だから帰れ、ついでにいらん機材も持って帰れ』 何が彼の逆鱗に触れたのかまったくわからない。私は車内の手すりに頭をとん、とん、とぶつけながらさきほど自分の身に起こった出来事を反芻した。 電車が高架の下をくぐる。外が薄暗くなり、窓ガラスが鏡のように私の顔を映した。 (ひどいかお…) 彼が機嫌を損ねたのはこの顔のせいか。 短い睡眠時間と寒さで、私の顔は真っ青だった。 電車が高架を抜ける少しの間、私は窓に映る自分を見つめ続けていた。 窓ガラスに昔の自分の姿を探した。雪道をぽてぽてと歩いて学校に向かっていた頃の自分を。空は分厚い雲が停滞していた。路上の氷は雲の隙間からときどき現れる日差しをキラキラと跳ね返していた。いつも寒くて、寂しくて、その白さに美しさを感じながらもずっと怖かった。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加