教科書を覗き込む距離

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 藤澤くんとは今までクラスが一緒になったこともないし、部活も違うし、委員会でも一緒になったこともない。  そんな私たちの共通点は…… 「誠! メシ買いに行こうぜ」  隣のクラスの弘くんが私の幼馴染であり、田内くんと親友だってこと。そんなことから、高1の時にたまに一言、二言挨拶を交わす仲になった。  初めて会った時に、なんていい笑顔をする人なんだろうっていう印象が強かった。顔見知りになってからは、弘くんがいなくても挨拶したり、遠くから手を振ってくれて、人懐っこい人だと思った。弘くんからは、野球部員の中でも面倒見が良くて、リーダーシップがあって、頼り甲斐があるって聞いて好感を抱いた。  2年になって同じクラスになってからは、野球部の練習に熱を上げ過ぎてたまに授業中に寝て怒られたり、苦手な現国のテストで赤点取って補修受けてたりと、違う面も見えてきたけど、明るくてみんなを纏めるのがうまいムードメーカーである藤澤くんにどんどん心惹かれていった。 「弘くん、またお弁当忘れたの?」 「美頼(みより)ー、怒られるから内緒な! 家帰ったら弁当食うから」 「もうっ、せっかくおばちゃんが仕事で忙しい中作ってくれてるのに!」 「わりわりぃ、じゃ、誠ー行こうぜ」  藤澤くんの背中を弘が力強く押した。すると、藤澤くんがくるりと私を振り返った。 「あ、田内さん。購買で何か買ってきて欲しいもんとかある?」 「ぇ。あ、ううん……だ、大丈夫」  び、びっくりした。まさかそんなこと、聞いてくれるなんて。  やっぱり藤澤くんって優しいな……
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