教科書を覗き込む距離

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 今朝のホームルームで、もうそろそろ席替えがしたいという要望が出て、明日することに決まってしまった。私はずっとこのままでいいのに。  席替えしたら、もう右隣に藤澤くんを感じられなくなるのかな。  少し距離が近づけた気がしてたのに、寂しいな。 「わりぃ。  教科書、見せて……」  ボーッとしてたら、右隣から声をかけられた。 「あ、うん……」  緊張しながら頷くと、「やりっ♪」と藤澤くんがニッと笑い、手を挙げる。 「せんせー。教科書忘れたんで、田内さんに見せてもらいます」 「お前はー。騒ぐなよ」 「へーい」    藤澤くんが軽く机を浮かして持ち上げ、移動させる。ぴったりと机同士がくっつき、近づいたその距離に右半身が石になって固まりそう。  鼓動が煩くて、授業に集中出来ないよ。 「サンキュ!」  顔を覗き込まれ、コクリと頷くだけで精一杯だった。 「はい。こっち持って」  教科書の左側を持たされ、右は藤澤くん。  左手の震えが、藤澤くんに伝わりそうでこわいよ……
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