深夜二時

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 「いりません」と即答した後輩は、話しながらも必殺技のキーを高速入力しているらしい。その手には乗らない。俺が、負ける訳がない。防御体勢に入ったまま、気付かれないように此方も必殺技で応戦する準備をする。カチカチ、カチャカチャ……。そして――、 「先輩が負けたら、キスしてください」 「……は?」  フリーズした。ゲームではなく、俺が。  その間もゲームは滞りなく進み、後輩の必殺技が炸裂し、 「あ、……あぁっ! お前、なに……ばかっ! もう一回だ!」  後輩は笑っていた。  何てことない表情で、笑っているのだ。  「先輩のそう言うとこ、好きですよ」なんて言って、俺の返事を期待しない後輩は、きっと俺の気持ちを知っている。俺がどれほど大人げないのかも、必死で後輩からの好意に目を背けている事も、何もかも。 「この、卑怯者……」 「なんとでもどうぞ」  結局、キスの件はなくなった事になって、何事もなく二人で肉まんを買いに行って、隣を歩く後輩の指先が触れそうになるから慌てて離れて、そんな俺を見て、後輩はまた、笑っていた。
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