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「……ついてる」
彼の手が伸びてきて、私の髪に触れた。
こそこそと動く手が、なんだかこそばゆい。
「取れた」
花びらを摘まみ、彼が離れる。
見上げた彼は唇を僅かに緩め、――笑っていた。
「あ、ありがとうござい、……マス」
言葉は尻すぼみになって消えていく。
顔が、耳まで熱を持ち、上げられない。
彼が、あんなに幸せそうな顔をして笑うだなんて知らなかった。
無表情からのあの笑顔は反則だ。
「そろそろ帰ろう。
もう遅い」
「そ、そうですね」
境内を出ていく彼を追う。
歩く速度はゆっくりめ、ときどき私がちゃんと来ているか振り返る。
あれはもしかして、私を気遣ってくれているのだろうか。
仕事終わりの予定を聞いたのも、自分の仕事をそれに合わせるため。
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