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目の前をなにかがひらひらと落ちていく。
私が立ち止まり、小さく声を出したものだから彼が振り返った。
「あ、いや、桜が……。
もうそんな時期なんだな、って」
見渡した範囲には桜などない。
あの花びらはどこから飛んできたんだろう。
「……」
無言で、彼が私の腕を掴む。
そのまま彼は強引に歩きだした。
「えっ、ちょっ……!」
なんの説明もなく、どこかへ引っ張られていくのは怖い。
しかも相手は無表情だ。
「やだ、離して……!」
多少、抵抗したところで彼は手を離してくれそうにない。
それに遅い時間のオフィス街、大きな声を出したって聞いている人などいない。
「離して……お願い……」
次第に声が鼻づまりになっていく。
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