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5.コーヒー・スイート・コーヒー
そうこうしている内に、通話を終えた道彦くんが店の中に戻ってきた。
「あれ? コーヒー、なんで冷めてないんだ?」
彼の前には、湯気をたてたコーヒーカップが置かれていた。無論、私と優奈くんが一計を案じて、淹れたばかりの特製ブレンドコーヒーだ。
「ミーくん、長電話なんだもの。すっかり冷めちゃってたから、お替りもらったの、私の奢りでいいよ?」
「ふーん、いいけどお前、何か変なもの入れてないだろうな?」
「さ、砂糖は3杯入れておいてあげたよ。甘ーいの好きでしょ」
疑いの眼差しを送りながらも、道彦くんはコーヒーを口にした。
「やっぱり淹れたては美味いな。甘さもちょうどいいし。なんかいつものコーヒーより美味いかも。」
私と優奈くんは思わず目を合わせ、こっそりガッツポーズをとった。
最初の私の提案では、チョコを丸々溶かしたホットチョコレートを飲んでもらおうとしたのだが、優奈くんからは却下されたのだ。それだと、チョコを渡そうとしたのがバレバレだから。――少しずつでいいんです、と。
今道彦くんが飲んでいるのは、いつものブレンドコーヒーに優奈くんのバレンタインチョコを適量入れて溶かした、特製スイートコーヒーなわけだ。
傍から見ているとじれったく、もうお前ら付き合っちゃえよ、という気分になるが、こんなペースで進展していくカップルもいいのかもしれない。やっぱりなにか入れただろ、入れてないよ、という二人のやり取りを見ながら、私はこの二人をゆっくり見守っていこうという気分になっていた。
了
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