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2.気になる二人
喫茶店のマスターという仕事の楽しみは、人間観察にある。
ランチタイムにやってくる、人生に疲れたようなサラリーマンの集団。
毎日モーニングサービスのために通ってくれる老夫婦。
ノートを広げ、なにやら書き込んでは頭をかきむしるフリーターらしき女性。
私が最近特に気になっているのは、窓際のテーブル席にいる若い男女二人組である。
月に3~4回は二人で来店するのだが、どうも恋人同士という雰囲気ではない。むしろ、男友達同士がバカ話をしているかのようで、先日は『ちょっとした努力で大金持ちになる方法』という話題で盛り上がっていたようだ。
今日もそんな二人の夫婦漫才にも似たトークを堪能しようとしていたのだが、なにやら様子がおかしい。
「ユウ、おまえなんか今日はノリ悪くない?」
「えっ! そそそ、そんなことないんじゃないかな? 朝ご飯の海苔は佐賀有明産の最高級品で、なんともいえない豊かな味だったよ!」
いつもであれば、軽快なテンポでボケを繰り出す女性(今ユウと呼ばれた女の子だ)と、間髪入れず的確なツッコミで応戦する青年のやり取りが心地良いのだが、青年のいう通り、ユウくんのノリが悪い。なにやら気もそぞろで、両手をテーブルの下に隠したまま、そわそわと落ち着かない様子だ。
はて、と何の気なしに壁のカレンダーを見て理由がわかった。
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