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やけに暑い日だった。
酷暑といわれているこの夏の中でも最高に暑かった。
節約のために朝はエアコンをかけないのだが、エアコンなしではとても過ごせなかった。
腹が減っていたが、バイトに行く時間だ。しかたなく、テーブルに半分食べさしで残っていたメロンパンをかじって、家を出る。
強烈な日射しだった。
暑いどころか、まるで、からだが溶けてしまいそうな気がした。
路地にはまったく人影が見られない。この暑さの中誰も外出などしたくないだろう。
バイト先の工場に着くまで、誰にも会わなかった。
控室には人の姿はなかった。最近作業が落ち着いてきているので、シフトを減らしているのだろう。
作業服に着替えて、現場に出る。
そこではじめて、おれは、おかしい、と思った。
作業場にも人影はなかった。しかもいつもうるさいくらいの音をたてて動いている検品対象の品物が流れてくるコンベアも息をひそめたように微動だにしていない。
まさか、今日は休みなのを勘違いしているのだろうか。
そんなはずはない、この工場はお盆すらカレンダー通りの営業だ。休みは土日祝だけのはずだ。今日は火曜日なのだ。
しばらく茫然とした後、おれはしかたなくその辺をうろついてみた。
作業場にも、事務所内にも、人っ子一人いない。
だが、あちこちについさっきまで人がいた片鱗が残されていた。
工場の隅の机には、ついいまさっきまでパートのおばちゃんたちがだべっていたかのように、菓子の箱が開いたままに放置され、紙パックのジュースがストローを指されたまま放りだされている。
ふと頭のあたりに異変を感じた。
頭頂部を触れてみると、何か、溶けたアイスのようにねばねばしているのだ。
溶けたアイス?
おれはさっき家を出たときのことを思い出した。
あまりの暑さに溶けそうだ。
次の瞬間、おれの視界はどろどろとしたもので覆われ、全身の力が抜け、おれは床に崩れ落ちた。
(了)
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