1章 惑いの池

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 私の心の深層にある、何かが私を邪魔していた。それはとても根深く、まるでホテイアオイとボタンウキクサのように池に覆い被さるような憂鬱なようなものだった。 「ねぇ、私がこの池に理由もなく入りたいと言ったら瞬はどう思う?」私は話題を変えた。 「この時期にかい? 愚かな行為だよ。さすがに止めるね」  瞬は、私が冗談で言っていると思っているだろうが、私は何度も理由なく池に入っている。 「そうだよね」  間違いなく、瞬の言うことが正論だと思ったが、自分を否定されたような気がして下を向いた。 「君は理由もなくって言ったけど、必ず理由はあると思うんだ。池に入りたいと思う理由が。物事には必ず理由があるからね。もしかしたら、入りたいのではなくて、入らなければならない、と自己暗示のように思っているとかさ」  私は意味の分からないことを尋ねたのに、ただ呆れるだけじゃなく、理論的に考えてくれるところも好きだった。  私は結婚する前に、何かしなければならないことがあるような気がしていた。それは勿論、私の心に根付いている憂鬱を取り除くことだろう。瞬にそのことを話すと、真剣に聞いてくれたが、私は、それが何なのか、具体的には説明出来なかった。     
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