3章 ホテイアオイ

3/9
前へ
/82ページ
次へ
 姉なりの、結婚する意味というものを考えていたが、私の月並みな意見と違うのなら、全く見当もつかなかった。家から最寄りのバス停で降り、私たちは歩いた。家から一番近いバス停なのに、家までは歩いて三十分もかかる。私たちはしばらく無言で歩いた。  家の前の池のほとりまで来ると、空への視界を覆っていた木々が無くなり、明るくなった。赤色を少しだけ薄めた色の夕陽が私たちを降りかかった。陽の光と姉はよく似合っていた。姉のことを良いように言いたくないのだが、素直に綺麗だと思った。    ホテイアオイが姉で、私がボタンウキクサ。きっと姉が太陽なら、私は月だろう。いや、私は月にもなれないのかもしれない。  そして今日は微かだが、ここから富士山が見えた。赤色の包まれた富士山は、わざとらしく美しく見せているようで気に入らなかった。 「今日は富士山が見えるわ」  私は、それでも誇張している富士山を姉に伝えた。沈黙を壊したかったのかもしれない。 「そうね」と姉は無関心な様子だった。たまにしか見られない富士山なのに、姉にとってはどうでもいいのだろう。 「それで、お姉ちゃんの結婚する目的って何なの?」  会話が膨らみそうにもなかったので、私は疑問を姉に尋ねてみた。 「あなただけには言うわ……」  少し沈黙があった後、姉が口を開いた。 「老いていくのが怖いのよ。とても」  姉は池を見つめて続けた。夕陽が眩しくて、良く分からなかったが、その瞳には涙が溢れているように見えた。     
/82ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加