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姉なりの、結婚する意味というものを考えていたが、私の月並みな意見と違うのなら、全く見当もつかなかった。家から最寄りのバス停で降り、私たちは歩いた。家から一番近いバス停なのに、家までは歩いて三十分もかかる。私たちはしばらく無言で歩いた。
家の前の池のほとりまで来ると、空への視界を覆っていた木々が無くなり、明るくなった。赤色を少しだけ薄めた色の夕陽が私たちを降りかかった。陽の光と姉はよく似合っていた。姉のことを良いように言いたくないのだが、素直に綺麗だと思った。
ホテイアオイが姉で、私がボタンウキクサ。きっと姉が太陽なら、私は月だろう。いや、私は月にもなれないのかもしれない。
そして今日は微かだが、ここから富士山が見えた。赤色の包まれた富士山は、わざとらしく美しく見せているようで気に入らなかった。
「今日は富士山が見えるわ」
私は、それでも誇張している富士山を姉に伝えた。沈黙を壊したかったのかもしれない。
「そうね」と姉は無関心な様子だった。たまにしか見られない富士山なのに、姉にとってはどうでもいいのだろう。
「それで、お姉ちゃんの結婚する目的って何なの?」
会話が膨らみそうにもなかったので、私は疑問を姉に尋ねてみた。
「あなただけには言うわ……」
少し沈黙があった後、姉が口を開いた。
「老いていくのが怖いのよ。とても」
姉は池を見つめて続けた。夕陽が眩しくて、良く分からなかったが、その瞳には涙が溢れているように見えた。
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