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「富士山に初めて登った女性は、男装して登ったの。着物を変え、髪を剃り髷を結って。自分が今登らなければ、女性が今後富士山に登ることは難しいだろう、とさえ考えていたらしいわ」
私の言葉が耳に入ると、姉はホテイアオイから手を放し、先に家に帰ろうと歩きだした。私は、姉が聞きたくないのだと確信した。
それに、私も姉に何を伝えたいのか、分からなくなっていた。
「お姉ちゃん、本当にその人のことが好きで結婚するんだよね?」
私は諦め、姉の背中に質問を投げた。
「ええ、そうよ。琢朗さんっていうの。今度、あなたにも紹介するわね」
思いのほか、姉の左目は寄らなかった。
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