1章 惑いの池

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 私がボタンウキクサで、姉がホテイアオイ。外見が美しい姉は、青紫の綺麗な花を咲かせるホテイアオイで、心の優しい私は、穏やかな形の葉をしたボタンウキクサだと。私にはどう考えても、美しい花を咲かせるホテイアオイの方が良い風に見えた。ボタンウキクサは、美しい花など咲かせはしないからだ。    だけど、今思い返してみても、私がボタンウキクサであり、姉がホテイアオイだっただろう。それは、やはり姉が遥かに美しかったからだ。後に、この二つの水草は外来種であり、繁殖力が強すぎて、水面を覆い尽くし、水の流れを滞らせ、漁業にも影響をもたらす厄介ものだと知るのであるが、美しいホテイアオイの花からは、それは連想できなかった。    今思えば、幼き頃から、必ず美しくなると確信させる容姿だったし、実際その通りになった。白い肌で、少しだけ目が釣り上がっていたが、背も高くスタイルもよかった。私と比べたとき、兄弟であることが虚しくなるぐらい、美しい容姿だった。周囲の人の誰もが姉の容姿を褒めたが、私の容姿に触れることはなかった。私は悔しさから、心のどこかで姉を認めなくなかったかもしれない。  自分で言うのもおかしいが、私の容姿は悪くない。むしろ良い方だと思っている。それでも、私の容姿に誰も触れないのは、姉と圧倒的な差があったからだろう。私が劣っているのではない、姉が飛び抜けて綺麗なだけ。     
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