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5章 姉の秘密の場所
姉の葬儀から数日経つと、いつもの日常に戻った。葬儀の後に一日だけ、休みを貰ったが、それからは普通に仕事に行った。
定時に仕事を終わらせると、バスに乗った。家から職場までは、一時間はかかる。バスに揺られ、しばらく窓の外を眺めていた。毎日見る風景であったが、私はここから眺める古臭い街並みが好きだった。
いつもの風景を眺めていたが、それに予想してなかったものが映った。
それは、姉によく似た後ろ姿だった。黒く長い髪を下ろし、生前からお気に入りだったうす紫のワンピース姿で通りを歩いている。まさに姉の姿だ。
後姿が姉によく似ているだけで他人のそら似だと言い聞かすが、心臓は鼓動を早め、一瞬、体が熱くなった。ブラウスの胸元から熱気が漏れるのを感じる。
私はその姿を目で追った。姉らしき姿は通りの角を左に入り、顔はよく見えなかった。
その姿を少し通り過ぎた後、バスが停留所に止まった。誰かが降りるのだろう。家からはまだまだ距離があったが、私は迷うことなくその停留所で降りた。降りるとすぐにその姿が曲がった道に走った。
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