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池を眺めていると、池に入りたくなった。おそらく月経がもうすぐ来るに違いない。服を着たまま池に入ると、後で面倒臭いことになっているのは分かっている。池に蓄積している、想像も付かない生物が腐敗したような泥の臭いが体に纏わりつくことになるし、ずぶ濡れのままお風呂場に向かうことになるわけになる。その姿を母に見つかれば、呆れとも、嘆きのような眼差しで怒られるに違いなかった。
少し考えたが、やはり欲求には勝てなかった。私は、入水自殺をするかのように服を着たまま、池の中に進んでいった。体中にホテイアオイとボタンウキクサの蔦が、侵入を拒むかのように絡みつく。それぞれの蔦は滑り、私の体は異様な粘膜に覆われたような感触だった。夏はとっくに過ぎている。水温が気にならないわけじゃない。滑りと同じように、冷たい水温は私を支配しようとする。だけど、私は気付かない振りをした。肌だけは、正直にそれを受け入れ、私の肌は、どこもかしこも鳥肌に覆われていた。
私はホテイアオイの花を見付けると、手繰り寄せそれを千切った。そして、手のひらに乗せ眺めてみた。青紫の花が水滴を落としていく。まるで、生きていく上で不可欠な水滴を邪魔な存在であるように。
姉はこの花を愛していた。花の美しさだけでなく、きっと自分に例えられたことが大きく影響しているのだろう。
姉はもうこの世にはいない。もし、生きていたら、このホテイアオイを美しく思い、ごく大事に扱って、簡単には千切ったりはしないのかもしれない。
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