1章 惑いの池

7/11
前へ
/82ページ
次へ
 瞬は、今は私の恋人だが、かつては、とても短い期間だけど姉の恋人だった。瞬と姉は学生時代からの友人であり、仲も良く、瞬はよく家に遊びに来ていたので、私も知っていた。社交的な瞬は、私とも、すぐに話すようになり、三人で出かけることもあった。 実は、そのときから私は密かに瞬に恋心を抱いていた。 瞬の外見にも、勿論魅かれたが、最も好きだったのは、瞬との会話だった。本をよく読むという瞬は、話題が豊富で知識もあった。私の周りの同級生では、興味すらない、絶対に持っていないような知識と経験だった。何気ない一言から、会話が広がっていき、その内容の結末は、いつの間にか必ず瞬の好きなものの話題に辿りついた。  私の密かな想いがバレていないか、いつも内心は不安だったが、バレることはなかった。 三人で過ごしている時、私は邪魔ではないかと、心配にもなった。だけど、二人とも嫌な素振りは全く見せなかったし、邪魔なことを心配するよりも、瞬と関わりたいという気持ちの方が強かった。  瞬と姉が寄り添っているのを見ると、悔しいけど私には敵わない、お似合いの二人だと思っていた。それでも、私は瞬が家に来るのを楽しみだった。 どれだけ会話しても、姉の恋人という枠が崩れることはなかったし、崩そうとする勇気もなかった。だけど、半ば瞬のことを諦めかけていた時、姉と瞬の恋は突然終わってしまった。とてもあっけなく。     
/82ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加