1章 惑いの池

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 二人の恋が終わってから、私たちは付き合うようになった。意外にも瞬の方からアプローチがあった。最初は、瞬が私に好意を持っていたなんて、信じられなかった。とても嬉しかったけど、さすがに、姉の元恋人の瞬と付き合うのは気が引けた。だけど、どうしても瞬の恋人になりたかった。姉から絶縁されるのを覚悟で、私は姉に、瞬と付き合ってもいいかと、許しを請うように尋ねた。罵声を浴びせられるぐらいの予想はしていたが、意外にも、姉は笑顔で、何事も無かったかのように、許してくれた。瞬のことに関して、未練は全くないように感じた。瞬とのことは、まるで幼き頃の過ちのように。 「あの水面に浮いてる二つの水草、何か知ってる?」私は瞬に尋ねた。 「睡蓮とかじゃなさそうだね」 「ホテイアオイとボタンウキクサっていうの。紫の花を咲かせているのがホテイアオイ。緑色の葉をつけているのがボタンウキクサ」 私は、それぞれを指さして説明した。 「ねえ、瞬はどっちが好き?」 「じゃ、ボタンウキクサの方が好きだね」瞬は、少し考えた後でそう答えた。 「どうして?」  私はすぐに尋ねた。私には、ボタンウキクサがホテイアオイよりも優れているとは思えなかった。 「ホテイアオイの方が見た目はいいかもしれないけど、俺にはボタンウキクサの方がなんだかしっくりくるんだ。理由ははっきりとは分からないけど。多分、それはあの小さな花のせいだと思う」  ボタンウキクサも一応は花を咲かせる。それはごく小さくて白い花だ。お世辞にも美しいとは言えないし、人の目を引く要素を何一つ持ってない。不思議な形の葉が目立つせいで、小さな花は目立たない。それにホテイアオイの花と比べれば、多くの人がホテイアオイの方が綺麗だと思うだろう。だけど、よく、自分のことをボタンウキクサだと例えられたからだろうか、私はその小さな花が嫌いではなかった。     
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