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「あの花の方が、ホテイアオイよりも綺麗だと思うんだ。地味だし、小さいけど、とても可愛いと思う。葉っぱも可愛い形をしているけど、その葉を上手く引き立てていると思うんだ。余計な自己主張はせずにね」
瞬はそう答えた。私はとても嬉しかった。それに瞬を選んで良かったと思った。私がボタンウキクサでもないのに。
「ボタンウキクサはね、昔から日本にある水草じゃないの。戦後になって日本に持ち込まれたのね。だから元の英名があるの。それって何だと思う?」
「それも分からないな」瞬は首を横に振った。
「英名はウォーターレタスよ。レタスって名が付いているけど、食用じゃないわ。葉には小さなトゲがたくさんあって、口に入ると、そのトゲが舌や咽に絡みついてとても痛いの」
「食べたことあるんだ?」瞬が尋ねた。
「ううん、偶然、口にはいったことがあるの」
私は嘘をついた。実は食べたことがあったのだ。
それから私たちは、池の周りを歩いた。幼き頃に姉と二人でそうしたように。
「まだ、そんな気分にはなれないかい?」
私の少し先を歩く瞬が心配そうに尋ねる。
私は、そんな気分、というのは結婚のことだとすぐに分かった。瞬にはプロポーズをされていたのだった。
だけど、私は結婚を躊躇していた。
瞬のことは愛していたし、すぐにでも結婚をしたかった。だけど、瞬のプロポーズの言葉に素直に頷けなかった。
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