あの、隣、いいですか?

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 もっている鞄を重そうに抱えている様子から、彼女も浪人生になってしまったのだろうか。 「えっ、あっ、どうぞ」  まさか。  あの女の子にまた逢えたなんて。  もう会えないと思っていた。  でも実際に女の子はオレの前にいる。 「……また会いましたね」  オレの事を覚えてくれているのか、わざとらしく小声で話しかけてくる。 「あ、そうですね」  オレも小声で返した。 「私、浪人しちゃって」  女の子はなぜか、不思議と悔しそうな表情をしていなかった。 「オレもです。お互い、頑張りましょうね」  そう言うと、女の子はあの頃のように微笑みで返してくれた。いい匂いもしたし、去年よりも綺麗になっていると思った。 「……今年もダメかもなぁ」  参考書を見るふりをしながら、女の子の横顔をやっぱりチラチラ見ていると、女の子がそんな事をつぶやいた。 「オレも」  あ、また目が合った。女の子の口元が、さっきより少しだけ緩んだような気がした。 「いやいや、頑張りましょうよ。……あの、ちなみに、どこの大学への進路希望なんですか?」  去年幾度も思い出したあの優しい笑顔で微笑みながら聞いてくる彼女に、俺はただただ驚いて、指先で回していた鉛筆を机の上に落としてしまった。
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