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はるつづく
陽子の家を訪ねてから、2年が経った。
私はあれから市が主催する短歌教室に通い始め、季節の移り変わりや日々のできごとを詠む練習をしている。
夫は相変わらず家では不機嫌で、娘は反抗期なのか近ごろは口ごたえばかりしてくる。
それでも、陽子が亡くなったと知ってからふさぎがちだった私に、夫は少し優しくなった。
結婚10年の記念日には、小さなダイヤモンドをちりばめた指輪をプレゼントしてくれた。私は指輪よりも、小さなカードに添えられた、「いつもありがとう」という一言が嬉しかった。
そのカードは今、陽子が私に詠んでくれた歌と一緒に、箪笥の引き出しにしまってある。
私が熱を出して寝込んでいたとき、夫と娘がカレーを作ってくれた。ほとんど食べられなかったけれど、家に充満したカレーの匂いは、疲れた身体に優しく染み込んだ。
ドラマのような幸せな家庭ではない。
それでも、家族は続いていける。
自分の人生の選択は、間違ってはいなかった。
そう思える日々が、重ねられていく。
高校生のとき、私は陽子が好きだった。
たぶんそれは、限りなく恋愛に近い「好き」だったと思う。
ずっと2人で、一緒にいたいと思った。
大学が離れ、陽子に新しい友達ができるのは内心おもしろくなかったし、紹介された彼氏など誰一人として好きになれなかった。
同性に抱く強い執着と独占欲に困惑し、私は同性愛者ではないと自分に言い聞かせた。
陽子も同じ気持ちでいるんじゃないかと、期待する心にふたをした。
その方が、お互いのためだと思ったからだ。
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