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私は横によけておいた、薄い封筒を手に取った。
白地に梅の柄の入った封筒の表には、何も書かれていない。でも中には文字の書いてある紙が入っているらしいことが、室内灯にうっすらと透けて見えた。
少しだけ糊づけしてあるところをていねいに剥がす。きっとこの中には、彼女の想いが綴ってあるはずだ。
どうして病気だと知らせてくれなかったのか。
どうして「お葬式に呼んでほしい人リスト」に私を入れてくれなかったのか。
どうして、いつから、苦しい想いを胸に秘めていたのか……
折りたたんだ便箋が入っているのだろうと思ったのに、中にあったのは一葉の一筆箋だった。
君の手が わたしのカレーを運ぶのを
見てみたかった せめて言葉が
紙片には、懐かしい陽子の文字で、その歌だけがしたためられていた。
私の目に、じわじわと涙が溢れた。
あぁ、陽子だ。陽子の歌だ。
無性にそう思った。
歌を詠む陽子の声が、彼女がそこにいるかのように、頭の中に響いた。
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